第13章 潜入捜査・壱
錆兎が素直に謝罪の言葉を述べる。しかしその顔からは、どうみても反省の色が感じられない。
((コイツ、お館様の命がなかったら、相手が誰であろうと突入しようとしたな))
そんな言葉が、義勇と音羽の頭の中に浮かぶ。
「わかっているのか、錆兎。もし確証が得られないままに俺達の動きが相手の知るところとなれば、俺達の命は疎か、鬼殺隊の存続さえ危ぶまれるほどに、権力も影響力ある相手だ」
「そう…だろうな。だからと言ってここで手を拱いて無為に時間を過ごせば、被害は増えていく一方だ」
「けして無駄に過ごしてるわけじゃない。もう少し慎重にと…言っているだけだ!錆兎、お前はいつも我を通し過ぎだ!」
「お前が慎重過ぎるんだ!男なら時にはっ……」
「二人共、ちょっと落ち着いてっ!」
二人を落ち着かせるように音羽が声を張り上げると、二人はハッとしたように黙り込み、顔を俯かせた。
義勇がここまで錆兎に食って掛かるのは珍しい。それほどまでに強大で危険視しなければならない人物なのだろう。
音羽はふぅ…と小さく息をつくと、義勇に顔を向けた。
「潜入するにしても様子を見るにしても、もう少し情報が欲しいわ。義勇、蘇芳清昌についてもう少し情報はないの?」
その問いかけに少し落ち着きを取り戻した義勇が静かに頷いた。
「蘇芳清昌は…二年前の二十歳の時、若くして当主の座を引き継いでいる。その年に前当主とその妻……つまり実の両親だが、それを事故で亡くしたからだ」
「だからそんなに若いのか。年齢は俺達とたいして変わらないじゃないか」
錆兎の呟きに義勇が頷きで返す。