第13章 潜入捜査・壱
「問…題?」
義勇の何時にない真剣な眼差しに錆兎が訝しげに眉根を潜めると、音羽も疑問に思ったのか、義勇に問いかけた。
「問題って……どういうこと?この屋敷の所有者ってどんな人物なの?」
確か街で話を聞いた御婦人方は、ここの所有者は政界にも大きな影響力を持つほどの人物だと言っていた。
音羽の問いかけに義勇は少し戸惑った表情を見せた後、ふぅ…と小さく息を吐いた。
「…お前たちなら、問題ないな」
義勇は二人の顔を交互に見やると、この屋敷の所有者について語りだした。
「この屋敷の所有者の名は、蘇芳清昌。齢二十二にして、製薬会社に不動産業、金融業などを幅広く展開する大企業の最高経営責任者であり、日本を代表する財閥の一つ、蘇芳財閥の現当主だ」
思ってもみなかった大物の登場に、音羽の目が驚きで大きく見開く。
「嘘、それってめちゃくちゃ大物じゃない!」
鬼殺鬼殺で忙しく、世の中の情勢に疎い音羽でもこの財閥名くらいは知っている。
蘇芳といえば、江戸時代から永く続く薬屋の名家。明治に入ってからは築いた財産で不動産や金融業界にも事業を広げ、今や日本を支える大財閥の一角だ。
確かにそんな人物なら、政界は愚か日本全体に影響力を持つ存在だろう。
「そうだ。だから慎重に事を運べと、お館様からもキツく言われていたと言うのに……」
義勇が錆兎の軽率な行動を嗜めるように目線を送ると、錆兎は軽く視線を落とした。
「そうだったのか。お館様の命とあれば仕方がないな。義勇、済まなかった」