第13章 潜入捜査・壱
「なるほど、私を餌に釣るのね?」
「あぁ。勿論危ない時は俺が全力で守る。だから、お前は安心してろ」
そう言いながら、安心させるように錆兎が優しげに微笑む。そんな不意打ちの笑顔に音羽の胸がきゅんと小さく高鳴った。
だって、そんなカッコいい言葉を口にしながら、そんな優しい笑顔を向けてくるなんて、はっきり言って反則だ。
顔を注視出来ずに思わず視線を下げると、慌てて答える。
「その点は、別に心配はしてないわ」
錆兎が守るって約束してくれたなら、きっと全力で守ってくれる。世界中を何処を探したって、こんなにも頼りになる人は他にいない。
そう思うのに…、
「それに私だって、そこいらの鬼や一般人相手なら、問題ないわけだし」
つい癖で、鬼殺の事になると余計な一言が出てしまう。しかし錆兎は特段気にする様子もなく「それもそうだな」と、笑って答える。
「じゃあ早速、乗り込むか!」
「え!?」
突然門に向かい歩き出した錆兎を、音羽が引き止めようと追いかける。本当に柱になるよう変人は行動が早い上に大胆で困る。
「ちょっと待って、もっと念入りに打ち合わせしてから……」
そう言いながら錆兎へと近づく、その時だった。
「っ!?」
突如眼の前を歩く錆兎の、その全身を鋭い殺気が包み込んだ。
それとほぼ同時に…
シュッ!
研ぎ澄まされた刃が、空を裂くような音が辺りに響いた。
「錆兎っ!?」
音羽が気づいて声を上げた時にはすでに、錆兎のすぐ背後に人影があり、その人影が握った刀のその刃先が錆兎の首筋に立てられていた。
突如眼の前で起こった光景に、音羽が小さく息を呑む。
しかし、当の錆兎は反応もなく、微動だにもしない。
「それ以上…行かせない」
錆兎の背後で、刀の主が静かな声で制する。
すると、それまで黙って立っているだけだった錆兎が僅かに口角を釣り上げた。
「いきなり首筋には刀…なんて、挨拶にしては物騒過ぎやしないか?……なぁ、義勇」
「お前こそ、ここで何をしている。錆兎」
そう問いかけると、冨岡義勇は静かに刀を鞘に収めた。