第13章 潜入捜査・壱
音羽達は町の外れ、木々が鬱蒼と生い茂る林の中へと訪れていた。
「錆兎、あの屋敷みたいね?」
音羽がちらりと視線を送る先を錆兎も見る。すると、木々の隙間に屋敷の塀のようなもの見えた。どうやらあれが町中にいたご婦人方が噂していた、例のキナ臭い屋敷で間違いないようだ。
錆兎は軽く頷くと、音羽と二人、怪しまれぬようにと自然を装いながら、だが周囲は警戒しながら、屋敷の門前と近づいた。
門の近くまで来ると木の幹に身を潜め、屋敷の様子を伺う。高い塀に囲まれて全貌は見えないが、門の鉄格子から見るかぎり、相当大きな屋敷であることがわかる。
「どうする?」
「ここからじゃ、中の様子がまったくわからないな。忍び込むか、乗り込むか…だな」
しかしまだ噂の段階で、そんなだいそれたことをしていいものか?
そんなことを考えて迷っていると音羽が不思議そうに問いかけてきた。
「ねぇ、忍び込む…ていうのはわかるけど、乗り込むってどうするの?」
まさか真っ昼間から、道場破りのように!?
そんなことが頭を過り困惑する。すると思ってることが伝わったのか、錆兎が苦笑いを浮かべた。
「流石に大っぴらに乗り込む…なんてことはするわけないだろ?幸い今日の俺達は私服姿だ。逢瀬を交わす為、人気のない町外れに来た男女が道に迷い、見つけたこの屋敷に助けを求め、一晩の宿をお願いする。…どうだ、自然な成り行きだろ?」
「まぁ…そうね」
逢瀬を交わす為、と言うのが、うら若き年頃の乙女としては少し恥ずかしいけど…。
「それにさ、失踪者は軒並み若い女だって言うし、こっちにもお誂え向きな若い女がいるしな。あちらさんも無下にはしないんじゃないか?」