第2章 秘蜜の関係※
これは二人だけの秘蜜の契約。
いつからだろう。罵り合ってばかりの音羽と、こうして身体を重ねるようになったのは……。
あれは数年前のこと、錆兎が柱になる少し前のことだった。
数人の隊士と任務に出た音羽と錆兎は、そこで今までに対峙したことがないほどの強い鬼と遭遇した。
連れ立った隊士達も皆、無残に殺され、残った音羽も錆兎も死を覚悟するほどだった。
しかし既のところで、なんとか力を合わせ、鬼を討ち取ることが出来た。
本当にもう駄目だと思った。死を覚悟し、一度は絶望した自分達が、今生きてるという事実。
生を実感した時、どうしようなく溢れてきたこの感情の昂りに、身体が火照り、気づいたら二人は、お互いに忌み嫌っている存在だと言うことも忘れ、貪るように身体を重ね合っていた。
恐らく誰でも良かった。生きてることを実感させてくれ、この興奮した身体を、冷ましてくれる相手なら。
それから二人は任務が重なる度に、鬼狩りで興奮した身体を冷ますように、身体を重ねるようになった。
そこに愛はない。事が終われば、いつもの犬猿の仲に戻るだけ。それだけのこと。
そしてそんな二人の行為には、暗黙の定め事がある。
壱 行為の時は、後ろからする。
弍 余計な愛撫はしない。
参 行為の前にも後にも、余計な会話はしない。
そして
肆 口づけはしない。
これは錆兎が回数を追うごと、学んだ事だった。
後ろからする。これは初めてこの行為に及んだ時に、音羽から言い出したことだ。それを今でも律儀に守り続けている。
他にも、もっといい気分にさせてやろうと、錆兎があの手この手で意気込んでは、音羽に拒否された。
もちろん、可愛いや綺麗などの煽るような言葉を吐けば、音羽に殴られる。
そして四つ目。
これも初めて身体を重ねた時の事だった。気分が高揚し、抑えられなくなった錆兎が音羽に口づけようと顔を近づけた。しかしそれを音羽は顔を背け、拒否したのだ。
これには流石の錆兎も凹んだ。それ以来、錆兎から音羽に口づけを求めることはなかった。