第12章 二人だけの…
「音羽、指輪にしないか!」
「え?…指輪?それって…、」
錆兎の突然の申し出に、音羽の瞳が驚いたように見開かれる。
「あぁ。(よし今だ、言えっ!)」
音羽の瞳を真剣な表情で見詰めると、音羽も錆兎の瞳を見詰め返してくる。
その瞬間、何処までも淡く澄んだ薄茶色の瞳、その吸い込まれそうに美しい瞳に心を奪われ、錆兎の心臓が突然、早鐘のように高鳴りだした。
「あっ、その…これは…、」
その事に動揺して、言わんとした言葉に詰まると、音羽がさらに不思議そうに錆兎の顔を覗き込む。そんな音羽に錆兎は慌てて言葉を絞り出した。
「別に深い意味はないんだっ!だが、俺はただ…いつかはお前と…「ねぇ、指輪なんてそんなの付けたら、戦闘の邪魔じゃない?」
「へ?」
錆兎の言葉を遮るように、音羽がさらっと答えると、思わず錆兎の目が点になった。
「だって、右手にしたら刀握るのに邪魔だし、左手でして、もし鞘に打つかって音でも立てちゃったら、鬼に感づかれるかもしれないでしょ?そんなの効率も悪いし……」
「効率って…、お前…まさか、指輪を付ける意味知らないのか?」
「意味?」
音羽が不思議そうに首を傾げる。その顔を見て、錆兎が呆れたように大きくため息をついた。
「なんで、知らないんだよっ!女なら知っとけよっ!」
おしゃれや流行りに疎い錆兎でも、意味を知ってると言うのに、こんな女と来たら……、錆兎の頭ががっくしと項垂れる。
「なによっ!鬼殺隊にいる限り、オシャレになんて感けてる時間ないんだから、知るわけないでしょ!」
鬼殺隊に入ってから、女として楽しみなど二の次で血の滲むような修行に、厳しい任務に励んできた。
可愛い小物や雑貨を見るのはこの殺伐とした世界で唯一の癒やしだし、昔から大好きだ。しかし日本古来の装飾品の意味合いはわかっても、洋物まで気は回せない。