第12章 二人だけの…
そう言って恥ずかしげに俯く音羽の装いは、蝶のあしらわれた黄色地の着物に、ほんのりと赤みの帯びた臙脂の袴にブーツ。肩までの栗色の髪は上半分を結い、黄蝶の髪飾りを付けていた。
「そうなのか、良く似合ってる。」
錆兎が嬉しそうに微笑んだ。音羽が自分とのデェトの為の服選びに迷ってくれたことが素直に嬉しかった。
「じゃ、そろそろ行くか?」
錆兎の顔が商店街の方に向くと、音羽が不思議そうに顔を傾げた。
「行くって…、今日は何処に行くつもりなの?」
「買い物に行く。」
「買い物って、何か買いたいものがあるの?」
疑問に思い問いかけると、錆兎は屈託ない笑顔を音羽に向けて、こう言った。
「決まってんだろ?お前と揃いで持てる何かを買いに行くんだよ!」
「え!?だって、これがあるじゃない?」
仕事用の鞄から巾着に移してきたらしい、あのガラス玉の装飾品を見せてくる。
「それは同期のお揃いだろ?俺はお前と二人だけの物が欲しいんだよ!」
「二人だけの物って……、」
(なんかそれって、本当に仲のいい恋人同士みたいじゃない?)
そう考えると、音羽の顔の熱が一気に上がる。何も言えずにいると、錆兎が、
「ほら、行くぞ?」
と、音羽の手を握って歩き出した。
「ちょっと…手……、」
恥ずかしげに手を引っ込めようとする。それを錆兎が阻止するようにぎゅっと握りしめた。
「離さない。いいだろ?今日はお前と俺の、初めてのデェトなんだからさ。」
そう言ってにっこりと微笑む。
そんな無邪気な顔を向けられたら、無下になんて出来るわけがない。
音羽は多少の恥ずかしさを感じながらも、コクリと小さく頷いた。
そして二人だけの、初めてのデェトが始まった。