第11章 恋焦がれて※
何処までも柔らかく暖かな、心地良い感触が唇を通して伝わる。錆兎はその感触を楽しむように何度か優しく唇を食んでは、やがて名残惜しげに唇を離した。
すると、パチッと目を開けた音羽と視線があった。
「あっ」
「………錆…兎?…………………っ!!」
状況に気付いた音羽の顔がみるみる真っ赤に染まり、唇がワナワナと震える。
「ななっ…何してるのよっ…、」
「起こしたみたいだな。済まない、お前の寝顔が見てたら余りにも可愛いくてさ、我慢出来なかった。」
悪びれもしない錆兎の顔が優しく微笑む。それとは反対に音羽の顔が違う意味でさらに真っ赤に染まった。
「見てたって、……やだっ、寝顔なんて…そんなもの見ないでよっ!」
「だってこの間は、お前の方が先に起きてたから見逃したし。それにお前は俺の寝顔見たのに、俺は見ちゃ駄目ってそんなのズルいだろ?」
「別に私は…貴方の寝顔なんて……、」
見た。しかもめちゃくちゃ可愛かったから自分も思わず口づけた。
(なんて、絶対に言えない……。)
音羽が黙り込んで俯くと、錆兎が顔を覗き込んでくる。
「どうした?」
「な、なんでもないわよっ!」
慌てて視線をそらす。すると突然、視界がふわりと揺れた。
「きゃっ!」
気が付けば錆兎の腕に抱き竦められていた。
「ちょっ…離して……、」
いきなり大きくて逞しい胸の中に顔を埋める形になって焦る。だが錆兎は構わずに音羽の身体をさらにぎゅっと抱きしめた。
「言ったろ?朝起きてはにかみ合うのが夢だって、今幸せを噛み締めてんだよ。」
そういえば、そんな事言ってた。
なに夢見がちなこと言ってるの?ってバカにしたけど、今ならわかる。少し恥ずかしいけど、けして嫌じゃない。
起きた時に感じる愛しい人の温もりに匂い、そして間近で見る笑顔。
その全てに、幸せを感じる。
音羽は錆兎の腰辺りから背中に手を回すと、ぎゅっとしがみつくように抱きついた。