第10章 素直への第一歩
カポーン……
水柱邸の湯殿の洗い場で、身体を念入りに洗い、湯に漬かると音羽は小さくため息をついた。
(……お風呂から出たら、錆兎と…きっと…そうなるの…よね?)
ついこの間、初めて錆兎と目を合わせてした時の記憶を思い出し、音羽は顔が熱くなるのを感じた。
錆兎が好きだって言ってくれたことでさえ、今だに夢のようで、思考回路が追いついてないのに、あんな顔で、あんな甘い声で、すごく優しく扱われて、頭がおかしくならないわけがない。
しかも今回は初めから布団の中。前回の勢いでした時とは違い、もっとすごいことをされてしまうかもしれない。そう思うと…、
(やだ……怖いっ!)
このまま湯に浸かってれば、のぼせて倒れれば、逃げられるかもしれない。
(でも…そうなれば、裸のまま、錆兎に運ばれるわけで……、)
それはそれで恥ずかしい!
「あぁーもう!!どうすればいいのよっ!?」
音羽が頭を抱えた、その時だった。
ガラッ!
「入るぞー!」
「えっ!?」
湯殿の扉が勢いよく開いて、錆兎が入ってきた。
「きゃーーーー!!な、なんで、入ってくるのよっ!」
「だって、お前遅いから、のぼせて倒れてたら、大変だと思って。」
「じゃあ、なんで裸なのよっ!ていうか、前くらい隠しなさいよっ、バカッ!」
素っ裸で入ってきた錆兎の、その下半身で揺れているモノが目に入り、慌てて顔を手で覆った。
「いや、もし湯船の中で倒れてたら、お湯の中に入らなくちゃいけないだろ!だから、脱いどこうかな…って。……別にこの前も見たんだから、いいだろ?」
錆兎の視線が自分の股間に向く。
「それに男なら、風呂場で前を隠すなど、そんな軟弱なことは出来んっ!」
「何よ男ならって、馬鹿の一つ覚えみたいにっ!そんなこと乙女の前でしたら、男らしいどころか、ただの変質者よっ!」
音羽が泣き叫ぶように突っ込むと、たちまち錆兎の顔が落ち込んだように蒼白になる。
「そう…か、これ…変質者なのか……。」