第10章 素直への第一歩
「もういいよ。今はこうして、俺の傍に来てくれただろ?……それより、」
錆兎が音羽を身体から話して、その顔を見る。
「そんなにもう泣くな。お前今、凄くブザイクだぞ?」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を見て、錆兎が思わず笑うと、音羽は拗ねたように唇を尖らせながら、服の裾で涙をゴシゴシと拭った。
「どうせ、はじめから可愛くないわよ!」
「いや、お前は可愛いよ。」
勿論、顔のことだけじゃない。
いつも、自分にばかり噛み付いてきて、女のくせに生意気で、顔を合わせれば顰めっ面ばっかで、ちっとも可愛くなかった…はずなのに、
それなのに本当のコイツは、ただの度を越す恥ずかしがり屋で、言う事なす事全部、愛情の裏返しとか…、
本当は誰よりも一途に、自分のことを想ってくれて、尽くしてくれてたなんて……、
こんなにも予測不可能で、面白くて可愛い女、他にいるか?全然、飽きない。
どうやら自分は、心底ハマってしまったらしい。
愛しさが込み上げて、音羽を引き寄せて強く抱きしめると、その額に優しく口づけ、小さく囁いた。
「音羽、好きだ。」
そう告げた瞬間、腕の中の音羽の身体が少しだけ強張ったの感じた。「ん?」と思ってると、突然音羽は大きく息を吸い込んだ。
「さ、錆兎っ!………そのっ……、わ、私もっ…、」
最後は消え入るように、錆兎の胸に顔を埋めたまま、精一杯口にした言葉に、思わずプッと吹き出してしまう。
「な、なんで笑うのよっ!」
「いや、すまん。可愛いな…と思って。」