第10章 素直への第一歩
その優しさでいつも、ちっぽけで卑屈な自分を暖かく包んでくれる。それなのに自分は、なぜこんなに優しい人を信用することが出来なかったのか。
「ごめんなさい……、」
消え入るように小さく呟くと、溢れそうな涙を堪えるように、錆兎の胸に顔を埋めた。
すると、音羽の頭の上で、錆兎が微かに小さく笑った。
「…なんてな。俺、また見栄張って、カッコよく見せようとしたな。……聞かないなんて言ってさ、本当は気になって仕方ないのに。」
「錆兎?」
「本当はさ、聞かないんじゃない。聞くのが怖いんだ。もし、聞きたくない言葉がお前の口から出てきたらって、そう思うと怖い。」
「怖い?」
錆兎が?どんな鬼にも勇敢に立ち向かい、常に先頭を走って、迷いなく自分の行き先を、そして鬼殺隊の行き先を自分達に示してくれた錆兎が?
「あぁ、もしお前が俺に飽きて、もう好きじゃない…なんて言われたら、立ち直れそうにない。今だって本当は、無理して俺に合わせてくれてるんじゃないかって、……もしそうなら、言ってくれよ?そうならもう、俺はお前に…付き纏ったりは…、」
その瞬間、音羽の顔が横にぷるぷると震えた。
「ちっ、違うのっ!嫌なんかじゃないっ!貴方の事、嫌いになるなんてこと…そんなこと……絶対にないっ!!………ただ、…怖かったの、私も、」
「お前も…怖かった?」
錆兎が聞き返すと、音羽はコクリと頷いた。
「この間のこと…、私はすごく…幸せだったから…、今も夢みたいで、信じられなくて。
でも私、意地っ張りで…可愛くないから…、錆兎みたいに素直に自分の気持ち、上手く伝えられないから、………こんな可愛くない女は、いつか飽きられて捨てられちゃうんじゃないかって………、」
震える音羽の瞳から、大粒の涙が溢れ出す。
「そしたらっ、今までみたいに同期としても、貴方の傍にいられなくなっちゃうっ!………そうなったらって、私……怖くて…仕方がなくて…………、だったら最初から無かったことにすればいいって、そう…思ったの。」