第10章 素直への第一歩
錆兎は軽く咳払いして、一回気を取り直すと、ニコニコと微笑む妙の横に立って、音羽に紹介した。
「この屋敷の使用人をしてくれてる妙さんだ。」
その紹介に、恥ずかしさに固まっていた音羽が畏まる。
「あっ、ご挨拶が遅れました!初めまして、一条音羽と申します。その…先程は、お見苦しいところをお見せしてすいませんでした!」
何とか平静を取り戻した音羽が慌てて自己紹介を返し、ペコリと頭を下げる。
「いえいえ、私こそお邪魔しちゃってごめんなさいね?錆兎さんが連れてくる女性なんて、どんな素敵な方なのかと、気になっちゃって、……でも貴方だったんですね?」
「へ?」
自分の事を知っているような言い方に、音羽が驚いた顔を上げる。
「音羽さん、お久しぶりです。」
「どうして、私の名前…、すいません…何処かでお会いしましたか?」
「見覚えなくて当然ですね。以前会ってた時は、私は顔を半分以上隠してましたから。」
そう言って微笑むと、妙は口元と鼻を軽く隠すように手で覆った。
「あっ……、」
音羽が何かに気づいたように、唇に手を当てる。
「もしかして、隠の奥村さんですか?」
「はい、そうです。」
その瞬間、音羽の顔に笑顔が浮かぶ。
「奥村さん、お久しぶりです!」
「ん?知り合いだったのか?」
錆兎の問いかけに音羽はコクリと頷いた。
「えぇ、奥村さんが隠だった時に、何度もお世話になったの。」
音羽は中堅の隊員として、忙しい柱の変わりに、事後処理の指揮を取ることも多かった。ベテランの妙には、困った時に何度もお世話になっていたし、色々な事を教わった。
「でも確か、再婚されて隠を引退されたんじゃ……、」
去年、同じ隠で、ずっと支えてくれていた男性と妙は再婚し、隠を辞めていた。だから音羽は妙とはそれきりだった。