第10章 素直への第一歩
「ちょっと待って…、そんなに顔、近づけないで、私…任務帰りで…汗くさぃ…、んぅ!!」
喋ってる途中に突然唇を奪われ、音羽は驚きに身体を震わした。
「んぅっ……」
抵抗しようにも強く抱きしめられ、ピクリとも動けない。そのまま暫らくの間、唇をゆっくりと食まれていく。
「んふっ…んっ…、」
久しぶりに感じる錆兎の唇の感触と、柔らかな温もり。恥ずかしいはずなのにその心地よさに、ここが玄関先であることも忘れて、身を任せてしまいそうになる。
やがて、錆兎の唇が名残惜しそうに離れると、音羽は顔を真っ赤にして、錆兎を上目遣いに睨んだ。
「また…こんなところで…、いきなり……、」
「済まない、我慢が出来なかった。…こんな事するから、避けられるんだよな。」
「別に、こんな事で……、」
避けてたわけじゃない。そう言い掛けると、錆兎の背後から小さく声が聞こえた。
「あのー?」
その瞬間、音羽が思いっきり錆兎を突き飛ばした。よろける錆兎が慌てて態勢を整えて、振り返る。するとそこには、
「た、妙さん!?」
使用人の妙がいた。
音羽の存在に意識を持っていかれて、家の中に妙がいたことをすっかりと忘れていた。
「妙さん、いつからそこにいたんですか?」
その問いかけに、妙は錆兎と、本当に恥ずかしそうに俯く音羽を交互に見て、徐ろに自分の身体をガシッと両手で抱きしめた。
「本当は来てくれないんじゃないかって、不安だったんだっ!………って辺りでしょうか?」
微笑む妙に、錆兎の顔がみるみる真っ赤に染まる。
「そんな前からっ、声かけてくださいよっ!」
「いえ、素敵だと思って、思わず見入ってしまいました。フフフ。」