第10章 素直への第一歩
促され、音羽は玄関の敷居を跨ぐと中に入る。そして、玄関から真っ直ぐに伸びた廊下を見た。
「ねぇ、錆兎。あの棚、倒れてるけど…、どうしたの?」
音羽に聞かれ、廊下に目線を向けた。すると、廊下の奥で確かに棚が崩れて倒れている。それを見た錆兎の顔が引きつる。
「あ…、あれは…その…、」
「ん?」
「…実はな。お前が来るからって、朝からずっとソワソワして…落ち着かなくてさ。
だからいざ来たら、慌てちまって………、玄関に来るまでに何かにぶつかった感触はあったんだが、アレ…だったんだな。」
気不味そうに顔の傷跡をポリポリと掻く錆兎に、音羽は思わず、小さく吹き出した。
「ふふ、何をしてるのよ。」
「仕方がないだろっ!お前には会うの、久しぶりなんだからっ…、」
恥ずかしげに、それでも真剣な顔で言い切る錆兎に胸が苦しくなる。
「…そうよね、…その、今までごめんなさい。」
音羽が申し訳無さそうな顔を伏せると、突然、身体がフワッと揺れた。
「……っ?」
気が付くと、錆兎の腕の中にいた。
「な、何っ!ちょっとっ…、」
「本当は来てくれないんじゃないかって、不安だったんだ。」
抱いた腕に力を込め、音羽の耳元に愛おしそうに顔を擦り寄せる。その姿に、音羽の胸がドクンっと波打つように痛んだ。
「あ、あんな手紙書かれたら、無視なんて、出来るわけ…ないじゃない。」
音羽にそう言われて、錆兎は妙の言葉を思い出した。自分の本当の気持ちを伝えれば、相手にはちゃんと届く…と。
「本当だったんだ。」
「え?何か言った?」
「いや、なんでもない。それよりも今は、お前がこうして俺のもとに来てくれた。それが凄く嬉しい。」
錆兎は音羽の身体をさらに強く引き寄せると、その首筋に顔を埋めた。