第10章 素直への第一歩
門を潜ると、玄関までは石畳が続いている。音羽はその一歩一歩を噛みしめるように歩みを勧めていく。
そうして、玄関の前まで着くと、そこでまた立ち止まって、大きく深呼吸を繰り返した。
(か、帰りたい……、)
でも、ここで引き換えしたら、今度は花子に髪の毛を毟られてしまいそうな気がする。
音羽は勇気を振り絞ると、今出すことの出来る最大の音量で叫んだ。
「ごめんくださーい。」
言い切ると同時に、自分の心拍数が激しく上がったのを感じて、思わず胸に手を当てて抑える。
そのまま胸に手を当てて、その時を静かに待った。すると………、
ガタンッ、ドタッ!!
なにやら、大きな音を立てながら、何かがこっちに慌てて走って来る足音が聞こえてきた。その音が玄関手前ぐらいで止むと、一呼吸ほどの間をおいてから、ガラッと玄関の扉が開いた。
「よく来たな、音羽!」
微かに息を乱した錆兎が、音羽を出迎えた。
暫く振りに会う錆兎に先程の鼓動とは違う、きゅんと胸を掴まれるような高鳴りを感じて、思わず頬を高揚させた。
(相変わらず、男らしくてカッコいい……、)
しかし、何かに違和感を感じる。音羽は首を傾げて思わず問いかけた。
「錆兎、どうしたの?……髪も服も乱れてる…みたいだけど……、」
そう指摘されて、視線を下に下げる。確かに部屋着の着物の前が微かに乱れてる。錆兎は慌てて自分の身なりを整えると、音羽に言った。
「気にするな。部屋で少し鍛錬してただけだ。」
「え?部屋で?」
音羽が驚いた顔を見せると、錆兎は気にするなと言うふうに笑い掛けて、音羽の横に回って、その肩口に手を置いた。
「ほらっ!いいから、上がれよ。」