第1章 最悪な出会い
鬼が完全に消えると、錆兎は持っていた刀の血を振り払い、ちょうど近づいてきた持ち主へと返した。
「助かった。お前が来なきゃ、俺はここで終わってた。」
「…別に助けに来たわけじゃ…ない。ただ…お前に……、」
「ん?」
「なんでもないっ!!」
慌てた様子で首を降る子供を見て、錆兎が首を傾げる。
「そういえばさっき、鬼の手が地面から出てくるって、良くわかったな?」
錆兎には音は愚か、気配さえ気づけなかった。
「雷やその派生の使い手は耳が良いことが多いんだ。自分のはたいしたことないけど、微かに地鳴りのような物を聞き取れたから……、いやそれよりっ!」
子供の薄茶色の瞳が錆兎を射抜くように見つめる。
「……さっきの……手当して貰った借りは、これでチャラだからっ!!」
その子供は錆兎から刀を受け取ると、ぶっきらぼうに答え、視線を反らした。その言葉に錆兎が納得出来ないとばかりに反論する。
「待てよ、助けてくれたことは感謝するが、最後に鬼を倒したのは俺だぞ?」
「は?鬼を斬ったのはこの刀だっ!お前のなんか、ぽっきり折れちゃって、何の役にも立ってなかったじゃないかっ!」
「なんだとっ!そのぽっきり折れた刀が、さっきお前を助けたんじゃないかっ!本当に感じ悪いな、お前っ!」
「ふんっ!助けてくれなんて、頼んでないし、余計なお世話なんだよっ!このお節介男っ!」
「おまえなぁっ!」
「なんだよっ!」
そのまま二人は向かい合った姿勢のまま、強く睨み合う。その膠着を解いたのは、空を飛び交う鎹鴉達の鳴き声だった。
「カー、カー!終了ー!最終選別終了ー!カー!」
気が付くと夜は明けていて、微かに明るくなった空には、大量の鴉達が飛び回っていた。
「……時間みたいだな。いいか、お前との決着はいつか必ず付けるからな。」
錆兎は最後にそう言うと、その子に背を向けた。子供はその後ろ姿に、何か言いたげに口を開いたが、留まると小さく「わかった。」と呟いて、背を向ける。
そうして二人は、背を向けあったまま、別々の山道を下った。
この日の選別結果
死者 零
討伐した鬼の数 全滅
これは長い鬼殺隊の歴史の中でも、初めての快挙だったという。