第1章 最悪な出会い
それから一年後の事だった、錆兎がその子供と再会したのは。
偶然、同じに任務についたソイツは、錆兎を見るなり、開口一番にこう叫んだ。
「あっ、選別の時のお節介男!!」
初めて会ったと思われる人物に、突然中傷と思わしきの言葉を吐かれ、錆兎が顔を顰める。
「錆兎、知り合いか?」
同じく一緒に任務に来ていた冨岡義勇にそう尋ねられ、錆兎は首を傾げた。
「いや、知らない奴だと思うが………、」
だが、お節介男という言葉に既視感がある。錆兎はその言葉を手かがりに記憶を辿ると、突然蘇ったのか「あっ!」と、大きく口を開いた。
「お前、選別の時のかっ!?」
しかし、違和感がある。あの時のコイツは、七日間の山籠りのせいか、薄汚れ、身なりも体型も貧相だったし、髪も短かった。しかも緊張からか、疲れ切った表情で暗い目をしていた。
でも今、目の前にいる人物は、身なりも綺麗になっていて、髪も肩先まで伸びている。
そして何よりも、明るい場所でみたその顔は、整っていて美しく、さらに選別の時よりも、柔らかく丸みのある身体付きに変わっていて……、これはもしかして…いや、間違いなく……、
「お前、女だったのか!?」
パァンっ!
その瞬間、小気味良い音を立てて、錆兎の頬に平手が飛んだ。
それがこの女、一条音羽と錆兎の出合いだった。これ以来、ことある事に音羽から、言い掛かりを付けられては犬猿の仲が続いている。
…………
………………
(そういえばコイツ、あの時思いっきり俺の顔殴ったよな。…まぁ男と勘違いしていた俺も酷かったが……、)
そんな音羽との、苦い思い出を思い出して、思わず叩かれた頬を抑えて苦笑いを浮かべる。
そんな錆兎を他所に、音羽は地面に置いた自分の荷物を拾い上げると、錆兎に背を向けた。
「じゃ、私も帰るから。」
そう言って歩き出す音羽の手首を、錆兎が掴んで引き止める。
「待てよ。まだ時間があるなら、……その……ちょっと付き合え。」
顎でくいっと付いてくるように指され、音羽は俯くと、小さく「わかった。」と呟いた。
ー 最悪な出会い 完