第1章 最悪な出会い
何とか逃れようと、子供が持っている刀を振り回す。しかし腕ごと掴まれている上に身体を前に向かされている為、腕の可動域が小さく、当たらない。
その間も鬼の力は強まってくる。体中の骨が砕けそうなほどの痛みに、子供の顔が苦痛に歪む。その姿を錆兎は苦々しげに見つめた。
(まずい、このままじゃ……、)
錆兎の視線が折れた刀に移る。残った刃先はわずか数センチほど。
(こんなんじゃ、刃が届く前に捕まる。)
だが、助けて貰った奴を放って逃げるなど、そんな薄情なことは絶対にしたくない。
(一か八か、体当たりでもして……、)
焦りを顔に滲ませ、錆兎が子供の顔に視線を向ける。するとその顔を見て、錆兎が驚いたように目を見開いた。
(あ、あいつ…、)
子供の苦しみに歪む表情……、しかしその目の光は、まだ失われてはいなかった。
子供は錆兎と目が合うと、ゆっくりと視線を下に、正しくは自分の手、刀を握った右手の方に向けた。
その瞬間、子供の言わんとすることを悟った錆兎は鬼に向かって一気に走り出していた。
それを確認すると、子供は手に握った刀を回転させ、逆手に持ち替え、勢いよく後ろに向かって振り抜いた。
「ぐああぁぁっ!」
振り抜いた切っ先が、ぎりぎり鬼の目玉に突き刺さった。痛みで叫び声を上げる鬼が子供の身体を地面へと振り落とす。
子供は振り落とされる瞬間、鬼の目から引き抜いた刀を、勢いよく錆兎に向かって投げつけた。
それをもうすでに目の前まで迫っていた錆兎が受け取る…………、
水の呼吸・ 肆ノ型
「打ち潮っ!」
錆兎の荒々しく振り落とされた刀が、鬼の頸を捕らえた。そのまま一気に振り落とすと、鬼の頸は激しい血飛沫を上げて、空へと舞い上がった。
「終わった…な。」
崩れていく鬼の頸を見て、錆兎は静かに手を合わせた。
仇は取った。でもだからといって、今まで喰われてきた者たちが報われるとは思わない。だがこれから先は、この鬼によって悲しむ人間はいない。せめて安心して成仏出来るよう、錆兎は心からそう願った。