第9章 水際の攻防
そこから一気に飛び上がると、瓢箪池の中央にある小島と大通りを繋ぐ橋の上に飛び降りた。そこから一呼吸も置かずに踵を返すと、脚を力強く踏み込む。
雷の呼吸・肆ノ型 遠雷
一気に飛び出し、襲ってくる水の塊と共に、近くで隊員を拘束している水の柱に斬り込む。水が力を無くして、隊員が放り出されると、音羽は空中でそれを捕まえて、陸の上に着地した。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます。」
音羽によって、静かに地面に降ろされた後輩の男隊員が感謝の言葉を口にする。
「ここは危ないわ、下弦でも相手は十二鬼月だから、貴方はもう避難して。」
音羽は短くそう告げると、背を向けた。するとその背中を見て、隊員が小さく呟いた。
「一条さん……、かっけー。」
その言葉を背中で聞いていた音羽が、わずかに微笑む。
(決まったわ。)
さっきは勘違いで、恥ずかしい姿を晒したけど、今のはカッコよく決まった。
満足そうに頷くと、音羽は次の隊員へと走り出した。
(へぇ…、アイツ、結構いい動きすんじゃねーか。)
向かってくる攻撃を、二つの刀をヌンチャクのように動かしながら裁き、瓢箪池の端の方まで移動した天元は、隊員達の救出に奮闘する音羽の姿をちらりと見て、薄く微笑んだ。
しかしそろそろこの状況にも飽きてきた。そろそろこの茶番を終わらせるか?
天元は、足元を掬うように突撃してきた攻撃を、回避するように大きく飛んだ。
飛んだ先に、またもや向かってくる水の塊。天元は呼吸を整えると刀を振り上げ、勢い良く振り落と……そうとしたのを寸前で止めた。
なぜなら、向かってきた水柱の先端に、部下の鬼殺隊員が括り付けられていたからだ。
「うぁっ、何だお前っ?」
「ごめんなさい、柱っ!でも、身体が言う事を利かないんです!」