第9章 水際の攻防
街灯の光が反射して、ツルりと光る月代(さかやき)に剃られた頭部、そこから垂れ下がった落ち武者のような髪は池の水に濡れて、まるで昆布のように、どろりとどす黒く、顔や首に纏わりついていて……、
その姿はもう間違いなく、日本の伝統的な妖怪、河童そのものだった。
相違点を上げるとしたら、河童の特徴である嘴のような口は付いておらず、口は人間のそれと同じもので、薄っすらと開いた唇の端からは、鋭利に先の尖った長い舌が垂れ下がっていた。
多分のあの長い舌を首筋に差し込んで、獲物の血を啜るのだろうと推測された。
そしてついでに付け足すと、その目には鬼の中でも上位で有ることを示す数字、『下弦・弐』の文字が刻まれていた。
「ちょっ…おまっ……、河童は流石に…ないだろう!ブッ…ブハッ、ブハハッ!!」
大声で笑い出した天元に釣られるように、他の隊員に中にも動揺が走る。
「そうだな、確かに河童だ……ブッ…、」
「一条さん、それはちょっと…酷いかも…、ククッ……、」
「え、違うの!?だ、だって、そっくりじゃない!」
次々と笑い出す隊員達に、勘違いしたことに顔を赤くして、反省するように俯く音羽。
その姿に黙って聞いていた鬼が遂に切れ出した。
「お前ら、いい加減にしろっ!誰が河童だあぁっ!!」
笑い出す隊員達を黙らせるように、鬼が怒号を上げる。
そんな鬼の姿に、天元が思わずツッコんだ。
「いや、お前も悪いぞ?江戸時代に鬼になったんだか知らねーが、時代錯誤も甚だしいんだよっ!!いつまでも月代なんて頭してるから、勘違いされんだ!」
天元の言葉に、鬼は怒りに顔を歪ませたまま、興奮したように叫んだ。
「違う、勘違いするなっ、これは月代じゃない、ただのハゲだっ!」
鬼のまさかの告白に、天元の瞳が、怒りから憐れみを帯びたかのように切なげに揺れた。
「そ、そうかぁ…。鬼の超回復力を持ってしても、死んだ毛根は…生き返らねーのか…。」