第8章 音柱の任務と蝶屋敷の女主人
鬼殺隊本部からの帰り道、錆兎は自身の屋敷まで後少しというところで、義勇から貰った助言のことを考えていた。
「うーん、…手紙かぁ。」
正直言って苦手だ。お館様への報告や、先生への近況報告、知り合いへの定期連絡。その辺りなら慣れているから問題ないが、恋文なんてものは、未だかつて書いたことがない。
だいだい、手紙なんてものに気持ちを認めるくらいなら、本人に直接言ったほうが早いし、誠意も伝わらないか?
だがそう思って、行動に起こしたことで、音羽に避けられているのだから、間違っていたんだろう。
「仕方がない、書いてみるか。」
向こうはこっちを避けたいようだが、このまま相手の出方を伺っていたら、自然消滅する可能性がある。それだけは絶対に嫌だ。
そんなことを思っていたら、水屋敷についた。
「ただいま、戻りました!」
玄関を開け、声を掛けると、奥の台所の方から、水屋敷の使用人である妙が出てきて、笑顔で迎えてくれた。
「錆兎さん、おかえりなさいませ。ご無事で何よりです。」
奥村妙、四十代半ばの元隠の女性だ。
錆兎の寝室まで来ると、妙は受け取った羽織を衣紋掛けに吊るしながら、錆兎に問いかけた。
「今日は早かったですね。もう少し、遅くなるかと思いました。」
「昨夜の任務は、義勇と二人だったから、早く終わったんです。」
錆兎の親友の義勇も、この屋敷にはよく出入りしている。妙とも顔なじみだ。
「そうだったんですね。でも、ごめんなさい。お夕食がまだ出来てないんですよ。」
「大丈夫です。部屋で書き物をしてるんで、声を掛けてください。」
「はい、かしこまりました。」
そう言って笑顔を向けると、妙は部屋から出ていった。