第8章 音柱の任務と蝶屋敷の女主人
「あっそぉ。でもそんなに可愛げねぇーんじゃ、そのうち錆兎にも飽きられて、捨てられちまうかんな。」
「そ、そんなことっ…、」
言われなくても、わかってる……、
そう言葉を続けようとして留まると、音羽は黙り込んだ。
他人からわざわざ指摘されなくても、自分のことは自分が一番良くわかってる。自分が可愛げがなくて、普通の女の子のように好きな人の前で可愛い振る舞いが出来ない事も、馬鹿な自尊心や意気地が無いせいで、素直に自分の気持ちも伝えることが出来ない事も……。
(だから…私は……、錆兎を……、)
音羽は切なげに瞳を伏せると、ぎゅっと唇を噛み締めた。
その姿に、天元が何かに勘づいた様子でふぅーと息を吐いた。
「お前さぁ、自分より上の連中にもずけずけと意見してくるくせに、たまに変なトコで消極的になるよなぁ。」
「………………」
「…まぁ、どうしても比較対象になっちまう同期にあんな天才がいたら、自信無くしちまう気持ちは、わからなくもねーけど。」
「それは……、でも今は別に、昔みたいに悲観的になったりはしてませんけど…、」
「そうなのか?」
天元の意外そうな顔に、音羽がコクリと頷く。
だってここには、錆兎のような人外な魔物どもがうじゃうじゃといる。隊に入ってからはそんな者達をたくさん見てきた。
だから今は、自分に出来る最善の事をしようと気持ちを切替えたのだ。
「でも、気持ちがわかる…なんて、私が自信ない理由がそうだったとしても、宇髄さんみたいな人には、私の気持ちなんて理解出来ないですよね?」
そう言ってプクッと膨れる音羽を、天元は鼻で笑い飛ばした。
「馬鹿言うな、俺だってな、同僚に得体の知れない奴や、選別で鬼全滅さすような天才どもと並べられて、しんどい時もあったわ!」
まさかの発言に、音羽は驚いた顔を見せた。
「宇髄さんでも、そんな時があったんですね。」