第8章 音柱の任務と蝶屋敷の女主人
天元に飯に誘われた音羽は、瓢箪池からほど近くの蕎麦屋に来ていた。
「ん?なんで、ぶーたれてんだ?」
注文を終え、目の前に席に座る音羽の顔を見ると、少し不服そうに見える。天元が不思議そうに問い掛けると、音羽は恨めしげな瞳を向けてきた。
「いつも派手派手だぁ!と言ってるくせに、なんでお蕎麦なんですか?鰻が食べたかったです。」
「あぁ?なら、入る前に言えっ!ド派手な俺様だってな、蕎麦が食べてー気分の時もあんだよっ!海老天三本追加してやるから、文句言わずに食えっ!」
鰻が良かったが、海老天三本もなかなかに唆られる。音羽は静かに顔を綻ばせると、口を閉じた。
「たくっ、お前は見かけはいいのに、中身は本当に可愛げがねぇーなっ!そんなんじゃ、錆兎も苦労すんだろーな。」
「なんで、そこで錆兎が出てくるんですか!?」
突然出てきた錆兎の名前に、音羽が不機嫌そうに眉をひそめる。正直今はあまり聞きたくない名前だ。
「だってお前ら、恋仲になったんだろ?」
「こっ、恋仲っ!?」
音羽の顔が一気に赤くなる。
確かに錆兎の積極的な行動のせいで、鬼殺隊では周知の事実となってきているが、面と向かって事実を確認されるのはまだ慣れない。
顔を赤らめて黙る音羽に天元がニヤニヤと微笑む。
「急にしおらしくなったじゃねーか?まさか、誰にも媚びないで有名の音羽様が、犬猿の仲の錆兎とねんごろとはな…、流石の俺様も予想しなかったわ。」
「…………」
音羽がムスッとしたまま、黙っていると、天元はそのまま言葉を続けた。
「それともう一つ、噂を聞いたんだが……、」
天元は薄く微笑むと、核心を突くように問いかけた。
「お前、錆兎の奴を避けてるんだってな?」
「っ!」
音羽の身体が、微かにピクリと震えた。
「その反応っつーことは、本当みたいだな。……お前な、お前がどんなに男を取っ替え引っ替え出来るほどの美人でも、あんだけ全てに置いて有望な男は他にいねーだろ?…まぁ、俺様もだけど。錆兎の何処が気にいらねーんだ?」
「そんなの、宇髄さんには関係ないじゃないですか。」
そう言って静かに俯く音羽を、机に頬杖を付いた天元が流し目に見る。