第32章 私と恋愛する気ありますか?(謙信様)
美しく降り注ぐ月光が舞のすんなりと伸びた手足やデコルテを艶めかしく照らし、謙信はしばし魅入って視線を落とした。
謙信「その格好が普通とは信じられん」
「はいはい。この格好に甚だしくご不満なのはわかりましたから、それよりお酒をもってどこに行くところだったんですか?」
話し相手ができて舞はご機嫌な様子で酒を含み、雑な動作で扇子を動かしている。
長い髪は適当にまとめたのか無造作に団子状になっており、これまた適当な感じで簪が1本さしてあるだけ。
露わになっているうなじにおくれ毛が落ちて、無造作な髪型にも関わらず妙に色気を孕んでいる。
他人の目を気にしない女に謙信はため息を吐いた。
謙信「廊下であられもない格好でくつろいでいる人間が居て、この辺り一帯を見回りできないと陳情してきた男達が居てな」
「見回り?」
パタパタと終始動いていた扇子がピタリと止み、まさかといった表情で辺りを見回している。
謙信「佐助は留守で、そうなると俺にしか対処できないからどうにかして欲しいとな。
…見回り番の邪魔をしてくれるとはやってくれるな?」
呆れ混じりの視線が露わになっている肌を冷たく突き刺した。
謙信がここに来たのは自分のせいだと知り、舞の手から扇子がポタリと落ちた。
「ごめんなさい!まさかこんな遅い時間まで見回りしているとは思っていなかったんです。
見回りの人達だけじゃなく謙信様にまで迷惑をかけて申し訳ありません…」
謙信「知っておけ。夜の見回りは半刻(1時間)に1度の頻度で行われる。
特にお前の周辺は昼夜関係なく念入りに見回りや見張りを立てているから、緩んだ格好をしていればすぐに見咎められるぞ」
「はいぃぃ~~!」
舞はおかしな返事をして自室に駆けこんでいった。
すぐさまうなだれた様子で肩に寝間着を羽織って出てきたが、やはり暑いのか寝間着の袖をたくし上げている。