第39章 桜餅か桜酒か(信玄様&謙信様)
「っ…ん…!」
謙信「っ、舞、信玄から離れろ」
1度目よりも長く触あう二人を引きはがし、謙信は舞の唇に手拭いを押しあてた。
謙信「いいか、信玄など迫る女をとっかえひっかえ不浄そのものだ。
俺が経験不足だというなら舞で経験を積むまでだ」
「え゛っ!!ち、ちょーっと待ってください。
謙信様は全然経験不足なんかじゃないです、大丈夫ですから!」
距離を縮めてくる謙信に舞腕を突っ張って抵抗し、なんとか思いとどまって貰えるよう説得したのだが……。
謙信「世辞はいらない。口づけなど片手で数えるほどしかしたことがない」
「え、そ、それであんなに……?」
謙信「あんなに……なんだ?」
「ええと…」
『すごく良かった』と言えずに口ごもる舞は、またしても隙だらけだ。
謙信は気づかれないようにニヤと笑い、抵抗する手首をガシッと掴んだ。
「っ!?」
慌てた舞が顔を背けた分だけ追いかけて、追い詰めた高揚感とともに小さな唇に食いついた。
謙信の腕の中でくたりとなった舞を、信玄はどう奪い返そうかと算段している。
2人の男に口説かれては振り回されて、舞は唇を良いようにされているのに怒るどころかオロオロするばかり。
とろけた舌の上で餡子の甘さと酒の香りが混ざりあい、どちらか片方を選ぶのは至極難しい。
舞はただただ混乱しながらも、何かが大きく動き出した気配に心を騒がせた。
戦国時代の春は雪解けとともに戦が始まる季節。
だが今日の春日山城はのどかに過ぎ、温かな春風に包まれている。
かたくなに硬かった種は、その温かさに触れてこわごわと芽生えの時を迎えていた。
END
2025/3/22