第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
手品師みたいに手が動いていたわけでもなく、ふっと息を吹いたわけでもないのに、消えて無くなったように見えた。
「え?えっ?どこに行ったの?せっかく大きかったのに」
佐助「俺のイリュージョンごみ箱に直行だ。
君に耳掃除してもらえると気持ちがいいんだけど、なんというか耳の排出物を喜ばれると複雑だ…大きいのも不潔だと思われそうだし」
「耳の……排出物………ぷっ、やだ、気にしなくていいのに。そういえば幸村も気にしてたよね。
大きいのが取れたほうが私はスッキリするんだけどな。
はい、いいから反対もやろう…て、イリュージョンごみ箱って……ぷぷ。
駄目だ、手が震える……っっ」
体勢を変えた佐助君がこっちを見て表情を緩めた。
佐助「君みたいな女性が恋人だったら楽しいだろうな」
「何言ってんの、それは佐助君でしょ!佐助君となら年がら年中笑っていられそうだよ!
それより佐助君ってさ、この距離で私の顔見えるの?」
恋人というキーワードに動揺をおくびも出さずに済んだのは、謙信様、信玄様、義元さんの後だったからだろう。
幸村や佐助君は無害だもんねと言い訳していると、気持ちが落ち着いた。
佐助「見えるけど少しぼやけてる。ピントを合わせるならこのくらい…かな」
「!?」
佐助君が身体を起こして顔を近づけてきた。
30センチくらいあった距離が10センチくらいになって、せっかく落ち着いたのに、また胸が騒がしくなった。
レンズ越しじゃない佐助君の眼差しにドキリとする。
(これってキスする距離じゃ………?)
あまりにも近いから目を閉じそうになって、でもこのまま閉じたらキスを強請っていることにならないか。