第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
義元「この曲がった先端でかきだすんだね。
こっちのフワフワした方はどんな時に使うの?」
「細かくてかきだせない耳垢をフワフワに絡ませて取るんです。
仕上げの時によく使います」
義元「簡単な造りだけどそれぞれ役割があるんだね。
はい、返すよ。見せてくれてありがとう」
「どういたしまして…」
青みのある黒髪をどけてそっと耳かきを差し入れて開始だ。
(今度は胸を押し付けないように気をつける!)
と当たり前のことに気合を入れた。
義元「ん……」
耳掃除を始めてすぐ兼続さんの肩がピクンと跳ねた。
くすぐったいか、ゾクゾク感に苛まれているかどちらかだろうと、そのまま続けていると…
義元「ちょっと待ってくれる…?」
一旦中止すると義元さんが片手で顔を覆い、はぁと息を吐いた。
「もしかして痛かったですか?」
義元「いや、なんていうか想像していたより……」
「想像していたより…?」
顔を隠していた手がおりて、義元さんが振り返りぎみに私を見上げてきた。
「っ!?」
玻璃の瞳は動揺に揺れ、頬は染まって艶冶(えんや)な表情を浮かべていた。
義元「気持ちが良くて蕩けてしまいそうだ」
「え、え、とぉ…………」
(さっきまで『ふんわりおっとり、落ち着いてます~』なキャラじゃなかった!?
な、なんでこんな信玄様に負けず劣らずの色気が!?」
草食動物に見えるけど実は肉食動物でしたみたいな変貌ぶりだ。
先程までは何も感じていなかった口元のホクロさえも艶っぽく見えてきて、心臓がバクンバクンとうるさい。
(おかしいな。佐助君から義元さんは危険人物じゃないって聞いていたのに)
義元さんが手の早い人なら信玄様同様、謙信様が何かしら見張りを立てたはずなのにそれもない。
てことは危険人物じゃないのは間違いない。
とにかく肉食動物『っぽい』からこちらもそういう仕様になって対面しないとまずい。