第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
(疲れた…。早く信玄様をやっつけちゃおう)
耳にかかった髪をどけると信玄様は気持ち良さそうに目を瞑って大人しくしている。
そうしていると普通にイケメンのお兄さんで、なんの無害もない人に見える。
(うん、格好いい。声もいいし、でもなんか本性を隠している感じがありありなんだよね。
信玄様って本音とか本心を前面に出して行動する時ってあるのかな…。
でも戦国武将だもんなぁ…実年齢より精神年齢めっちゃ高そうだし、そう簡単に本心を見せてくれないよね)
考え事をしながら耳掃除をして、あと少しで終わると言う時に視界の端っこにササっと何かが動いた。
何だろうと見たら、いや、見なければ良かったのに、私は見てしまった。
現代の世で『1匹見かけたら、その家には100匹居る』と製薬メーカーが謳っている、身の毛がよだつ黒いアイツをっっっっっ!!!
6本脚
黒い
艶々してる
ここまではカブトムシやクワガタと同じだ。
でも違うのは…………
カサカサカサカサ……ササササ………
「っ」
悲しいかな、2億年前から存在しているコイツは、そのおぞましい姿形、動きに至るまで、たった500年ごときでは何も変わらなかった。
視界を横断する足の速さに恐怖して呼吸が止まった。
一番近くに居た信玄様が私の異変に気付き、目を開いた。
信玄「姫?どうしたんだ?」
「信玄様っ、あの……あっ……!」
説明する前に『ソレ』が何を思ったのか羽を広げ………
「っ、きゃ―――――――――――――!!!!!!」
信玄「っ、舞」
信玄様は何も見えていなかっただろうに素早く身を起こし、私の視線の先を読んで肩を掴んで引き倒した。