第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
兼続「失礼ながら謙信様からは二人きりにするなと命じられた以外は何も聞いておりません。
恩を売るなら耳掃除の後、直接謙信様に訴えてください。
謙信様は恩を仇で返す方ではありません」
(うっ、全然丸くおさまらない言い方っ!)
兼続さんは敢えて知らぬ存ぜぬの、融通の利かない部下を演じている。
しかもさりげなく『皆が居る状態で耳掃除をしてから行け』と示して、謙信様の命令を通そうとしている。
(流石謙信様の片腕だっ!)
私と佐助君、幸村の3人は『どう出る?』と今度は信玄様を見る。
面白動画でよく見る、同じ方向を一斉に見るペンギンみたいだ。
信玄「もうすぐ今夜の宴のために取り寄せた酒が到着する頃だが、やはり必要なくなったと上田城に運ばせるか。
珍しい酒だから謙信にも飲ませたかったんだが残念だ……」
兼続「………」
お二人とも平然とした顔でいるけれど、見ているこっちは産毛が逆立つような寒気を感じる。
兼続さんは少しの思案の後、部屋の外に声をかけて襖を全開にさせた。
磨き上げられた廊下のむこうに美しい日本庭園が見えた。
兼続「三人とも廊下に出ますが襖は開け放っておいてください。
『部屋に二人きり』、これ以上の譲歩はしません」
(う……信玄様相手に物怖じしてない。凄い…!)
(私って、こんな凄い人につっかかっていたなんて無謀すぎっ……!)
兼続さんの凄さを目の当たりにして私は震えあがった。
兼続さんには関わらない、信玄様は常に警戒を怠らない!と肝に銘じて、私は耳かき棒をぎゅっと握りしめた。