第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
(う、無言で返されるとは予想外だっ…!)
あせっていると、兼続さんの口の端が持ち上がった。
兼続「もっともらしいことを言ったは良いが考えていることが丸わかりだ。
だが口にしたのなら責任を持て。湯殿が整いしだい身を清め、謙信様がご用意した着物を着ろ」
「…はい。お約束いたします」
どうやら兼続さんには心の声まで見透かされていたようだ。
意見が通ったのに敗北感しかない。
(悔しいけど、私には兼続さんを『ん…』と呻かせることができる秘密道具があるんだから!)
移動中、佐助君から親しくない武将についてサーチ済みだ。
兼続さんは珍しいものに興味を持つ性格らしいから耳かきに興味を示さないわけがない。
敗北感に打ちのめされた心を無理やり叩きおこして耳かきを取り出した。
「時間があるので兼続さんの耳掃除をしたいと思うのですが、いかがですか?」
兼続「いや、俺はいい」
「え?」
春日山城の全員がしてもらいたいのだと勘違いしていた。
断られるとは思っていなかったので驚いていると、知的な色を浮かべた目が勝ち誇ったように細められた。
兼続「耳掃除をやらせたら負けを喫(きっ)するのは俺のようだ」
「そんな…」
兼続「何故という顔をしているが、全部お前の顔に出ていたことだ。
わかりやすすぎて逆に罠かと思ったぞ。
例えお前が相手だとしても心理戦で負けるつもりはない」
(優秀だと思っていたけど本当に頭いいんだ、この人!)
まあ私もわかりやすい顔をしていると思うけど、短期間にここまで的確に言い当てられるのは、人をよく見て分析できる人間ということだ。
それに予感だけど、この人は私をからかって楽しんでいる。
佐助君は意地悪だとかそういう話はしていなかったから、これもまた話に聞いていたのと違う一面で、嗜虐思考があるということなのか…。
本当のところどうなのか、この目で確かめたい。