第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
「終わりましたよ。お疲れさまでした」
謙信「ありがとう、舞。
身を任せるというのも良いものだな。まぁ、お前限定での話だが」
(また甘いことを…っ!)
本当に謙信様だよね?と目をこすっても間違いなく本人だ。
謙信「舞」
「はい、なんでしょう?」
謙信「さっきのをもう一度してくれ」
「さっきの?」
耳掃除をもう一回?と思ったのは間違いだった。
謙信様が私の手をとり頭に導いた。
(こ、これは……っ)
かつてこれと同じ要求をしてきた人が居た。
(頭を……撫でて欲しいの?
謙信様が?)
緊張でカチコチになった手が謙信様の頭に乗り…撫でろと言うように左右に動かされた。
無造作に動かしたから謙信様の髪が乱れてしまって、私は乱れを直しながら頭を撫でた。
謙信「……」
目を閉じてされるがままになっている謙信様は穏やかそのもの。
褪せた金髪が指をサラサラとくすぐり、触り心地がとても気持ち良かった。
「頭を撫でて…無礼にはあたらないのですか」
謙信「俺が撫でて欲しいと言っているのだから無礼でもなんでもないだろう……」
謙信様はそのまま寝てしまいそうな勢いだったけど、しばらくすると満足したのか身を起こした。
謙信「礼を言う。ひと時の安らぎになった」
「こちらこそ、謙信様のお世話ができるなんて光栄です。
ありがとうございました」
氷のような表情しか見せない人が、私が掴んでいた耳たぶにそっと触れ『気持ちが良かった』と表情を和らげた。
(照れ顔が……尊いっ)
かの軍神は刀を持たなくても人を殺せる。
女性だけじゃない。男性だってこの照れ顔には悩殺されるだろう。
謙信様の表情に失神しそうになりながら貴重な笑顔を堪能した。