第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
謙信「どうした?早くせねば舞の愛らしい唇を食べてしまうぞ?」
「っ!?!?」
(食べって…!?)
(信玄様が女性を口説いてると、いつも白い目で見てる人がどうしたの?)
あの謙信様が、ド直球な言葉を口にしたのが信じられない。けど、間違いなく本人の口から発せられたものだ。
『はっ!?』という大声をゴクっと飲みこめた自分を褒めたい。
ここで大声を出したら今度こそ不興をかっていただろう。
「わかりました!大急ぎでやります!!」
謙信「ふっ、そう急がずとも良い…お前の膝は心地よい。
ずっとこうしていたいくらいだ」
「あ、ありがとうございます」
(膝の上に居るのは信玄様じゃないよね?
いや確かに信玄様はさっき部屋を出て行ったし……)
言動もそうだけど白い頬がうっすらと染まっていつもよりも表情が柔らかい。
謙信「お前が毎日こうしてくれたら、さぞ心安らかに居られるだろう」
(うんんっ!?やっぱり変だ。
謙信様がキャラ変してる)
表面上落ち着いたふりをしているけれど、謙信様にペースを乱されて冷や汗だらだらだ。
謙信様がこんなに激変すると誰が予想できただろうか。さっき身体を拭いてもらったのに、着物の中は変な汗がこもっている。
(うぅ……どこかに頭でも打ったのかな。今日の謙信様、変!)
そう思いながらも普通に会話ができるから、安土城の面々にもまれているうちに少しは成長していたんだろう。
「ふふ、耳掃除はそんなに頻繁にすると良くないんですよ」
謙信「そうなのか?では膝枕なら毎日しても問題なかろう?」
「ええ、膝枕ならいいでしょうね」
甘々攻撃にすっかり動揺し、耳掃除中の謙信様の表情を見るのをすっかり忘れてしまっていた。
けれど気が付けばお部屋に吹き荒れていたブリザードは止んでいて、訪れた沈黙には穏やかな温かさがあった。
(予想外に心地いい時間かも。徹夜気味だし、なんだか眠たくなってきたなぁ…)
気を抜けば眠気が襲ってきて、欠伸を何度かかみ殺しているうちに涙目になった。