第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
――――
信玄様は『せっかくだから姫と二人きりにしてやるよ』と部屋を出て行った。
陽だまりのような信玄様が居なくなっただけで部屋の温度が5度くらい下がった気がする。
謙信様の地雷がよくわからないから、些細な会話で機嫌を損ねてしまったらと思うと不安で仕方がない。
(うぅ、信玄様にずっと居て欲しかった。
佐助君は戻ってこないのかな)
謙信様特有の冷えを感じながら膝に誘う。
「耳掃除をしますので、ここに寝転んでもらえますか?」
謙信「なに…?」
膝を軽く叩いた私の動作に、謙信様の眉間にくっきりと皺が寄った。
(う、いちいち怖いよ~~。
助けて、佐助君、信玄様~~~!)
そういえば信長様や秀吉さんが『越後の龍は女嫌いだ』って言っていたのを、たったいま思い出した。
(私のバカ…。女嫌いの人に膝枕を強要するなんて、そりゃあ怒るよね)
気を取り直して畳をポンポンと叩いた。
「すみません。膝枕ではなく畳でかまいません。
要は寝転んで欲しいだけなので」
謙信「安土の連中には膝枕をしてやったのだろう?
ならば俺もそれで良い」
何故か不機嫌オーラを再噴出させ、謙信様が立ちあがった。
座布団を何枚か貸してもらい、謙信様が寝転んでも痛くないように並べた。
(こんな不機嫌な人の耳掃除できるかな)
不安すぎる。
「ではどうぞ?」
謙信「ああ」
謙信様はおもむろに寝転んで私の膝に頭を乗せた。不機嫌そうな割に頭の乗せ方はゆっくりだ。
気遣ってもらえたのは嬉しいけど……仰向けに寝られて困った。
(なんで仰向け?)
政宗みたいに悪戯心でした訳ではなさそうで、頭の位置を微妙にずらして心持ち口の端っこが上がっている。
少しくつろいでいるような気がするのは気のせいか…。