第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
謙信「その着物は佐助が用意したものだろう?
不愉快だ、さっさと脱げ」
(なんで佐助君が用意したものを着たら不愉快なの?
やっぱり横暴な人なのかな…)
多少ビビりながらも、話せばわかってくれるかもしれないと正当性を主張した。
「佐助君が選んだかはわかりませんが、たったいま着付けが済んだところです。
それにこれを脱いだら着るものがありません」
謙信「この俺が脱げと言っているんだ。早く脱げ」
はりつめた空気に女中さんはスッカリ怯えてしまい、『舞様…』と小声で促してきた。
「でも……」
(この反応……脱がなきゃ駄目なの?)
女中さんに目で訴えるけれど、女中さんは謙信様の命令に絶対なようで、こくこくと頷いている。
(めんどくさいなぁ…)
しかも脱ぐのは良いとして、目の前に謙信様が居ると脱げない。
それなのに謙信様は一向に部屋を出て行こうとはしなかった。
(目の前で脱げってこと?佐助君にパワハラで、私にはセクハラ?
佐助君…ウルトラ級のヘルプが欲しいですけど…!)
まさか謙信様と顔を合わせて早々こんなことになるとは思わず、物につられてホイホイ来るんじゃなかったと後悔した。
謙信「……」
「……」
女中さん達が息をのんで見守る中、私と謙信様は静かに睨み合っていた。
(女子から着るもの取り上げるなんてどうかしてるよ。
しかもなんで人前脱がなきゃいけないのよ、絶対ヤダ!)
お互いに譲らずに睨み合っていると、謙信様の背後にぬうっと大きな影が現れた。
少し間延びした柔らかい声が緊迫した空気を打ち破った。