第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
謙信「………」
「………」
呆気にとられて何も言えず、謙信様は不機嫌そうな顔をさらに不機嫌にさせて立っている。
(あ!挨拶っ……してない)
謙信様の不機嫌の理由を探して、城にあがりこんで挨拶をしていないことに気が付いた。
「ご、ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。
御無沙汰しております。謙信様がお呼びとのことで安土より参りました」
(これで不機嫌が治ってくれれば良いけど………)
怒っている理由は挨拶ではなく他にあるような気がするけど、とにかく頭を下げて返答を待った。
よく来たとか、歓迎の言葉が返ってくることはないだろう。
大体、謙信様に挨拶をしても『何故ここにいる』『またお前か』『相変わらずぼんやりした顔だ』と、まともな挨拶が返ってきたことはない。
今日はどう返ってくるかなと選択肢を頭に並べていると、
謙信「……その着物を脱げ」
選択肢にはない、というか予想もしていなかった返事が来た。
(脱げ?え、今、脱げって言った!?)
耳を疑うとは、まさにこのこと。
着付けが済んで3分も経っていないのに、なぜ脱げと言われなきゃいけないのか。
(まさか信長様みたいに夜伽しろって言い出さないよね?
勘弁してほしいんだけど~~~~~泣)
はるか昔の記憶を思い出し、断る気まんまんで頭を上げると、きつく細められた二色の瞳と目が合った。
言動はともかく相変わらずクール系イケメンだ。
けれど爽やかさが無いのは目の奥がどこか病んでいらっしゃるからで、現在、物凄くどす黒いオーラを漂わせている。
信長様とは怖いの方向性が違っていて、耐性がないから余計に怖い。
(もーやだ。しょっぱなからブリザードが吹いてるじゃーん!)
顔には出さないものの今すぐ帰りたい。