第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
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安土を抜けて越後へ向かう田園風景は田植えが済んだばかりといった感じだった。
私と佐助君は幼い稲が風に揺れる様を堪能することもなく、春日山を目指して馬で駆け抜けた。
農作業をしていた人達は荒々しい馬の音に何事かとこちらを振り返り、乗っているのが女だとわかると『あれえ、じゃじゃ馬な女子(おなご)が居たもんだなぁ』と笑っていた。
(これじゃあ誰も私が安土の姫だって気づかないよね)
佐助君の服を着ているし、長時間の乗馬で埃だらけだ。
安土の姫だと気づかれない方が都合がいいので、怪我の功名といったところだろう。
日が落ちても睡眠はそこそこに徒歩で進んだ。
夜明けとともに馬に乗り、途中見かけたお茶屋も安土とは違う風景も、なんにも楽しまずに駆け抜け、安土を出発した翌日に春日山城に到着した。
謙信様のお城というから物々しく殺伐とした雰囲気を想像していたけれど、城へ続く坂道は緑が多く、たぬきやウサギなどの動物がひょっこり顔を出しそうだった。
堂々たる風格の城を前に、これまた立派な城門が私達を迎えてくれた。
城門まで馬で乗りつけるという、恐らく大変失礼な行為は佐助君の顔パスでどうにかなった。