第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
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一度安土城に戻って書き置きをして、旅支度をして、と考えていた私は甘かった。
その場で一筆書かされた私は、どこから現れたのかわからない佐助君の仲間に書置きを預けて、そのまま越後に向かうことになった。
佐助「まさか舞さんとの交渉がこんなに早く済むと思わなかった。
馬が待機している場所まで案内するよ」
「ひゃっ」
頭脳派に見える佐助君だけどやっぱり忍者だった。
私を横抱きにしても平気な顔で高速移動する佐助君にときめいてしまったのは内緒にしておこう。
(それにしても信玄様と幸村は遭遇率が高いから普通にお話しできるけど…)
それ以外のメンバーは佐助君を通して知り合っただけで、仲が良いかと言われるとそうでもない。
謙信様とはすぐに会話が終わるし、義元さんや兼続さんとなると挨拶を交わしたぐらい。
(耳掃除となると会話も必要になるのに、大丈夫かな)
佐助「はい、これ変装の時に着る袴なんだ。そのままじゃ馬に乗れないから着替えて欲しい。
こっちの馬はさっきの同僚が乗ってきたんだ。舞さんが乗っていいよ」
「う、うん」
少々の不安を抱えたまま私はぶかぶかの袴に着替え、馬にまたがった。