第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
「女中さんに言えば用意してくれるだろうけど、こういうのは自分で用意してこそ達成感が得られるよね♪
あ、これシソっぽい!」
赤紫色の葉を見かけてしゃがみ込むと、頭の上から少し慌てたような声がした。
?「それは毒草だ、舞さん。
それで梅干を作って振舞ったら、立派な集団殺人事件になってしまうからやめておいたほうが良い」
さっきまで人の気配がしなかったのに、見上げると忍び姿の佐助君が立っていた。
「佐助くん!!こんなところで会うなんて奇遇だね!
というか、これ毒草なんだ?へへ、間違っちゃった」
赤ジソという特徴ありありな植物を間違うなんて恥ずかしすぎる。
そんな私を馬鹿にするでもなく、佐助君は口布を下げて笑った。
佐助「久しぶり。今日は舞さんを探してやってきたから奇遇じゃないんだ」
「私を探して……?何かあったの?」
佐助「君の耳掃除の噂が越後まで流れてきて、困ったことに春日山の面々が耳掃除をしてもらいたいと言いだしたんだ。
今日は舞さんが越後に来られそうな日を教えてもらいに来たんだ」
「あの噂が越後までいっちゃったの!?」
信長様から耳掃除禁止令が出たのはかれこれ数か月前の話で、私の中ではとっくに終わったことになっていた。それなのに、だ。
まさか噂が数か月かけて越後にまでいき、春日山の武将達に興味を持たれるとは思ってもみなかった。
佐助「『信長様が禁じられる程気持ちが良い耳掃除とは、どんなものだろう』ってね。春日山だけじゃなく越後城下でも噂されているよ」
「大げさだって、やめてよ~。普通に耳掃除しただけなのに」
たかが耳掃除でどうして噂が広がるのか。
戦国時代の人はそんなに暇じゃないでしょうにと、大げさに息を吐いた。