第31章 耳掃除をしよう(春日山勢)
立て込んでいた仕事が一段落して、私は城下町が一望できる小高い丘までやってきていた。
緩やかな坂道を味わうように歩き、青葉を茂らせている木々を眺めていると、身体に滞っていたものが正常な流れを取り戻していくみたいだ。
さぁっと吹く爽やかな風に目を瞑り、瑞々しい空気を吸いこむ。
何日か続いていた雨のおかげで、空気が澄んでいて気持ちが良い。
「ふ~…癒されるな…。ん?」
一本の木の下に黄色い実が幾つか落ちていて、気になって手に取ってみれば、それは熟した梅だった。
見上げると青みが残っている黄色の梅が沢山生(な)っており、もうすぐ収穫時期を迎えそうだ。
「もう梅の実が熟す時期か…。
そう言えば梅干しは作ったことないんだよね。今年は作ってみようかな」
現代では時間がない時間が惜しいと追い立てられるように生活していたのに、今は休日ともなると何かに手間暇をかけて楽しみたいと思える。
佐助君じゃないけど100%アナログな戦国ライフも案外悪くない。
「梅は城下で買うとして、この辺に赤ジソ生えていないかな」
森林浴に来ておきながら、すっかり梅干しの材料収集に変更になってしまった。
花より団子的だなぁと苦笑しながらシソを探す。
「あ、花菖蒲(はなしょうぶ)だ!お部屋に飾りたいな」
護身用に持っていた小刀で花菖蒲を刈りとり、不揃いな茎の長さを調整すると綺麗な花束ができた。
お部屋に飾った姿を想像して大満足して…気づく。
「そうだ、シソを探してたんだった!
やだなぁ、いつの間にか団子より花に戻ってた」
我ながら意識散漫だと呆れつつ、シソがないか改めて周囲に視線を這わせた。