第30章 魔女の薬(兼続さんルート)(R-18)
「そちらの準備ではなく心構えのようなものです。
兼続さんは未来人である私を受け入れる心の準備を、私は未来を、故郷を捨てる決心を、今のうちにしておきたいんです。
それに夫婦の形だって一夫一妻制の500年後とは違うんです。兼続さんが私以外の女性を愛することを許せるように…ゆくゆくはならなくてはいけないでしょう?
私はとっくの昔に兼続さんと夫婦になりたいと決めていますが、婚姻とは好きな気持ちだけではできません。お互いを受け入れ、背負い、支える気持ちがなければ長く続きません。
そのために恋仲のうちに時を共有し、お互いを知り合うことは大事だと思うんです。
今は兼続さんに待ってもらって、この時代の作法を勉強しているんですよ。夫婦になってから作法を勉強しているようでは、それこそ大急ぎでやらなくてはいけないので大変でしょう」
とっくに舞の気持ちは固まっていたのだと知り、謙信は頷いた。
謙信「なるほど、気持ちは固まっているがゆえの準備か。
急かして悪かった」
「いいえ。心配していただいてありがとうございます」
謙信「だがこのさき望郷の念にかられたとしても、それは舞の決心が生半可だったとは俺は思わない。
生まれ育った地や、共に過ごした者達を時折思い出し、懐かしむことの何が悪い?俺とて幼少を思い出すことがあるぞ?」
「謙信様は幼少の頃から春日山にいらっしゃったのではないのですか?」
謙信「いいや、違う。この城に来たのはここ数年の話だ」
謙信が含みのある笑みを浮かべたのを見て、舞は何かしらの事情があったのだと、それ以上の追及はしなかった。