第3章 姫がいなくなった(信長様)(前編)
「だ、だって……!恥ずかしくて言えません!」
舞はあまり攻めると強情になる。
(会話の内容を変えてみるか)
天下人にここまで気をつかわせる女は他にはおらず、新鮮だ。
信長「それで貴様が着ている着物はなんだ?」
「あ…下はフレアスカートです。上はカットソーといいます。
あちらでは普段着ですね」
信長「あちらの世では女がこんな格好をするのか」
「はい。このライトモカのカットソーは一目ぼれしちゃって…。
スカートは……そろそろ安土にも藤の花が咲いているかなと思ってこの色にしたんです。
目が覚めたら500年後の世に居て、信長様のところへ戻りたくて戻れなくて……だからせめて一緒に見たかったお花の色の服を着ようかなって…どうしたんですか、信長様」
(嫌いと言っておきながらこの女は……)
信長「夜が明けたら連れて行ってやる。古木の藤棚をな…。
貴様を連れて行こうと思っていたのだ。急に居なくなりおって」
遠慮なく抱きしめてやると舞が腕の中でじたばたもがいた。
顔も首も真っ赤に染まっている。
「なんで抱きしめるんですか!」
信長「勝手に居なくなった罰だ」
「恋仲でもないのにこうしてぎゅっとするのは、あちらの世ではセクハラって言われて怒られちゃうんですよ?」
嬉しそうに緩んだ顔は到底怒っているように見えないのだが、言葉では正論を述べてくる。
それがおかしくてたまらない。
信長「ふっ」
腕を解き、顎を捉えて覗き込む。
信長「ならば今すぐ恋仲になれば良い。俺は貴様を気に入っているぞ?」
「信長様の『気に入っている』は気まぐれでしょう?私、大勢の中の一人になるなんて…」
信長「俺の周りに女と言えば貴様しかおらんだろう。どこに大勢いる?」
「え……?」
信長「一夜をともにした女は大勢いるが、貴様が現れてからは誰も閨に入れていない。
恋仲になりたいと言ったのは貴様にだけだ」
(二度と消えぬよう舞を手に入れたい)
逃げられないよう腰を抱く腕に力を込めた。
「信長様は私を……好き…なのですか?」
信長「そう言っている…、鈍い女だ」
「………信長様、本当…?」
信長「好きでもない女をしょっちゅう呼び出すと思うか?」
舞が顔を埋めた胸もとが涙で温かい。