第3章 姫がいなくなった(信長様)(前編)
信長「俺に会いたい…だと?何故だ」
何故と問うておきながら胸の締め付けが再び始まり、苦しみだす。
「だって私………信長様のこと…」
死を覚悟しているのか舞は目を潤ませた。
真っ直ぐにこちらを見る瞳は戦も、謀りごとも、飛び散る血も、何も知らない純真無垢な色をしている。
血の道を行く俺に怯えることなく向けられる瞳は強く、美しい。
「あなたのことが………き……」
信長「聞こえんな。もっと……俺の耳元で言え」
「……え?わわっ!?」
手加減していた両手に力を込める。
あっさりと身体を引き上げられ舞は声をあげた。
欄干を乗り越え、二人で床に転がった。
身体の上に感じる確かな温もりが逃げていかないよう、背に腕を回した。
信長「俺のことが……なんだ?」
「むっ!まさか信長様、すぐ引き上げられたのに、わざと加減していたんですかっ!?」
信長「貴様が愚かなことをするのでな。言葉ではなく体に教えた方が早いと思ったまでのこと。これで屋根から一人で降りようなどと思わないだろう?
ここを何階だと思っている。落ちたらひとたまりもないことなど、赤子でもわかる」
「う……申し訳ありません」
信長「早く続きを言え」
舞は頬を染め、そっぽを向いた。
「信長様のことが………き、嫌いです」
信長「貴様は大たわけだな。時を越えてまで会いたいと思った相手が嫌いだと?」
腹の底から笑いがこみあげてくる。
舞が帰ってきただけで、こんなにも愉快な気分になる。