第3章 姫がいなくなった(信長様)(前編)
「私も好きだったんです、ずっと…。でも言い出せなくて…。
桜の花も、本当は一緒に見に行きたかったのに誘えないまま散ってしまって悲しくて…」
時折しゃくりあげる様子は、まるで幼子のようだ。
愛おしくなってその身体を抱きしめる。
信長「桜はどう頑張っても来年まで咲かん。藤の花で我慢しろ」
「は、はい。楽しみにしてま、ふっんん!?」
信長「恋仲になったのだから、口づけくらい好きにさせろ」
「す、好きにさせろって!!初めてするキスなのに、もっとムードとかシチュエーションとか!!」
よくわからない言葉でまくし立てる顔は、怒っているというより照れている。
信長「何を怒っているのかわからんが、俺がしたい時にして何が悪い」
「う、横暴!信長様との初キスだったのに…。でも格好良すぎて許しちゃう…悔しい~~」
俺の胸にぐりぐりと頬を擦り付け悔しがっている舞が愛おしい。
(此度の件、居なくなったのも…意味があったな)
どれだけ大事で、どれだけ好いていたか自覚した。
信長「戻って来たからにはもうどこにも逃さん。わかったか」
「は、い…!」
天主に寝転んだまま抱き合っていると、バタバタと走ってくる足音が聞こえ、遥か下の庭から秀吉の安否確認の呼びかけが何度も繰り返された。
秀吉「信長様〜、舞〜!」
(五月蠅い)
「ムードなさすぎ…色々と……ぷ!」
アハハと声をあげて笑う舞の顔が、輝く朝日に照らされた。
東の空が明るい。いつもと同じ朝だ。
だが不思議なことに舞が笑ってそこに居るだけで、輝くような一日が始まるような、そんな気がした。
END