第3章 姫がいなくなった(信長様)(前編)
秀吉「信長様っ、舞っ、危ないっ!」
秀吉の声の後に、紫色が上から落ちてきた。
身構えていた場所よりも更にむこう…。
落ちるギリギリまで身を乗り出し、手を伸ばした。
落下の体勢の舞と目が合った。
「の、信長様っ」
舞が履いていたおかしな形の履物が脱げて落ちていく。
掴んだのは舞の手首。掴んでもまだ落ちることを止めない身体に、もう片方の手を伸ばした。
信長「っ、そのままジッとしていろ。引き上げる」
俺の手にぶらりと掴まり、舞が真っ青な顔をして頷いた。
秀吉「大変だ、おい誰か!信長様のところへ!
半分はありったけの布団をもってきて下に敷け!!」
秀吉が指示を出し、人影が動き始める。
「信長様……」
引き上げると言った割に動かない俺に、舞は不安を隠せないでいる。
信長「俺より先に死ぬことは許さんと言ったはずだが?
何故助けを呼ばず降りようとした」
「こ、この状況でそんなこと…っ」
信長「重要なことだ。返答によってはこの手を離すぞ」
舞は『え?』と目をむいている。
「だって…信長様を起こすなんて…忙しい方だから疲れているでしょう?
少しでも長く寝てもらいたくて……」
信長「俺に少しの睡眠を与えるために、貴様は命を捨てるのか。そんなに軽いものなのか?」
(俺にとっては何にも代えがたい尊い命を、たった少しの睡眠を与えるために放りだすなど許さん)
「命を捨てようと思ったわけではありません。滑っただけです。
強制的に先の世に戻され、こっちに戻ってきたいと思ったのは信長様にまた会いたかったからですもの」
握り合った手が震え、舞の身体もゆらゆら揺れる。