第30章 魔女の薬(兼続さんルート)(R-18)
――――
(姫目線)
兼続さんの手で押し入れが閉められた。
現代の押し入れと違った重々しい音に、不安が増長される。
兼続さんが部屋を出ていった後、遠くのほうで話し声や足音のようなものがして、徐々にその音は小さく、そして何も聞こえなくなった。
(たった一人なのに、陽動作戦は成功するのかな)
手伝うと言いたかったが男達が探しているのは自分であって、どう考えても足手まといだった。
何もできないのは歯がゆいけれど、できることはここでジッとしていることだ。
私を隠すように置かれた布団に寄りかかる。
綿がしっかりと入った昔ながらの布団は、寄りかかっても動ないうえに温かい。
こんな状況ではあったけれど、布団のおかげで落ち着いてきた。
「怖かった…」
胸を抑えて息を吐いた。
女を寄越せと怒鳴られたし、頼むと懇願している人もいた。
(1人なら身体がすくんで襲われていただろうな…)
力強く手を引いてくれた存在があったから足が動いて、ここまで来られたのだ。
心細い状況だけど、湯殿で想いを確かめ合った出来事が気持ちを奮い立たせてくれる。
「早く戻ってきて、兼続さん……」
兼続さんのことだからやりきってくれる、そう祈りながら待つこと……次第に時間の感覚がおかしくなってきた。
まっ暗闇では時間の感覚が狂うと聞いたことがあったけれど、その通りだ。
(同じ体勢がきつくなってきたから10分以上は経ったかな)
布団に寄りかかる角度を変えようかと座りなおした時、ふと廊下を歩いてくる足音に気がついた。
(誰かがこっちに歩いてくる…)
だんだん近づいてくる足音は不規則で、足音の主がふらついているのがわかる。
湯殿を出た時、兼続さんはあんなにふらついた足取りをしていただろうか。
こんなにふらついている人が、さっきのように廊下を走れるだろうか。
嫌な予感がつきまとう。
(追いかけてきた人達の1人…?)
陽動したといっても全員を動かせるわけじゃないから、この足音も兼続さん以外の誰かということも大いにありえる。