第3章 姫がいなくなった(信長様)(前編)
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ガタン!!!
浅い眠りについていた早朝。天井から物音がした。
目を覚まし身構えるも、音は一度きりだった。
(忍びこんできたにしては随分と下手な……)
刀を抜き、どこから仕掛けてくるだろうかと視線を巡らせていると………
「いたたた……え?ここ天主!?戻ってきたんだ、やったー!」
恐ろしく間抜けなセリフが聞こえてきた。
さっきの音は天井裏ではなく、屋根からだったようだ。
開け放っていた窓の外から声が聞こえてくる。
「やったー…は良いとして……どうしよう。こんな高くちゃ、動けないよ~~」
間抜けな声は、情けない声に変わった。
信長「……」
刀を鞘に収めた。
何故かふつふつと怒りのような感情が湧いてきて、冷え切っていた心が瞬時に熱くなった。
(怒りにも似ているがこれは…違うな)
胸にふつふつと湧き上がる感情は怒りではなく、恋情。
諦めかけていたところに再び現れた女に、激しい恋情が湧いた。
「薄暗いけど何時かな…。信長様居るかなぁ?
寝ているのを起こしたら、めっちゃ怒られるよね」
ブツブツ何か言っているのを黙って聞いてやる。
「と、とりあえず自力で何とかしてみようかな。少しずつ行けばなんとかなるよね」
とんでもないセリフの直後、舞の荷物とおぼしき物が屋根から降ってきて、下へと落ちていった。
音を立てて落ちた荷物に気付き、にわかに下が騒がしくなった。
暗い庭にばらばらと人の影が集まり始めた。
「ああっ、荷物が!思ったより滑るかも…うわぁ!?」
光秀「舞っ!?」
暗い庭から光秀の低い声が響いた。
見ると、白い着物を着ている光秀だけがぼんやりと浮いて見えた。俺が襲撃されても落ち着き払っている男が、珍しく声を大にしている。
光秀「信長様っ、いらっしゃいますか!舞が天主の屋根から落ちそうですっ」
信長「わかっている」
さっき荷物が落下してきた位置の真下に位置取り、身を乗り出す。
騒ぎを聞きつけたのだろう。秀吉の声も加わった。