第3章 姫がいなくなった(信長様)(前編)
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様々な方面を捜索させたが舞は見つからなかった。
異常なほどに手掛かりがない。
捜索にあたらせた者達の収穫のない報告を受ける度に、心の内が少しずつ冷たさを取り戻し、次第に以前のように夜、眠らなくなった。
呼び出して囲碁をする相手も、俺を恐れず酒を注いで話をする相手も居ない。
信長「夜伽を命じたら、お伽話を始めたこともあったな…」
思い出し、静かな笑いがこぼれた。
真におかしな女だった。振る舞いは落ち着きがないうえに優雅さの欠片もなく、表情はコロコロ変わった。
それだけならそこらの町娘と変わらないが、不思議と一本筋が通ったところがあって、俺や武将達にも歯に衣着せず、モノを言っていた。
秀吉に止められても掃除に精を出し、小うるさい娘を拾ったものだと見ていたが、気が付けばその姿を追うようになっていた。
信長「藤の花が咲く頃に、貴様を遠出に誘おうと思っていたのだがな……」
桜が早く散ってしまったと残念そうにしていた舞に、季節の移り変わりで咲く紫の花を見せようとしていたなどと、あの女は知らぬことだろう。
心臓なのか、心なのか……締め付けられて酒の味もわからない。
験担ぎではなく恋仲として傍に置こうと決めた矢先に……消えた。
信長「藤の花が咲いたら…などと悠長に考えているから、貴様を逃したのだろうな」
真夜中の天主でひとり酒を飲む。
居ない舞の面影を探すよう、シトシトと雨が降る外を眺めた。