第3章 姫がいなくなった(信長様)(前編)
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秀吉「城中、城下中を探しましたが舞はまだみつかっておりません。
先ほど近くの山中に捜索を出しました」
信長「寺院にも使いを出せ。この際宗派問わず、片っ端からあたれ。尼寺には女中を遣わせろ」
秀吉「はっ」
秀吉が慌ただしく天主を去っていき、立ち替わるように光秀が姿を現した。
光秀「お館様」
舞が心配でたまらないと顔にも態度にも出ている秀吉とは違い、光秀は声色ひとつ代わっていない。
落ち着いた動作で信長の前に座った。
信長「なんだ」
光秀「春日山に潜ませている間諜に確かめさせました。舞の同郷だと言う猿飛佐助は、春日山城に居るそうです」
信長「そうか。ならばワームホールとやらは関係ないということか……」
(誰も見ていない隙にワームホールが開いたかと憂慮したが…違うか…)
舞が使っていた部屋には先の世から持ってきたという『ばっぐ』が残されていた。
仮に舞自らがこの城を去ろうと思い立ったのなら、必ず持って行っただろう。
女中が部屋から持ってきた荷物の中には、縫いかけの着物もあった。
(おそらく舞の意志とは関係なく何かが起こり…)
消えるなり、連れ去られるなりしたのだろう。
光秀「あの娘が進んで城を去るわけがありません。
必ずどこかに居るはず。捜索の手を広げます」
信長「……遊郭に売られていないかも、調べておけ」
光秀「そちらは既に手を回しております」
光秀が部屋を出たところで九兵衛に指示を出している。
信長「貴様とならば…共に歩んでも良いと思い始めていたのだがな……」
バッグの中に入っていた珍妙なクマの人形を舞の代わりにして、頭を撫でた。