第3章 姫がいなくなった(信長様)(前編)
「信長様、今年の桜はあっという間に散ってしまいましたね」
酒の席で舞が残念そうに言い、盃に口をつけた。
こやつは戦国の世に来るまでは果汁を入れた甘い酒ばかり飲んでいて米の酒は苦手だと言っていたが、近頃は好んで飲んでいるようだ。
信長「花が儚いのは知れたこと。俺や舞も似たようなものだ」
酒を飲み干すと舞が徳利を持ち上げた。
「信長様に限ってそんなことないですよ」
信長「それはお前にも言えることだ」
「?」
酒を注ぐ手をとめて、舞は小首を傾げている。
信長「舞は俺の験担ぎだ。容易く命を落とすようなことはさせんぞ?」
「ふふ、ありがとうございます」
頬を赤らめて笑っていた舞は、数日後……忽然と姿を消した。