第30章 魔女の薬(兼続さんルート)(R-18)
「んっ、冷たいっ」
水しぶきが舞にもかかり顔をごしごしと擦っていたが、頭から流れる水に逆らうように手を下から上へと動かしている。
(雷蔵の毛づくろいのようだな)
兼続「ふっ」
笑った途端、胸が軽くなった。ついさっきまで怒り狂っていたのに不思議な気分だ。
笑われた舞と言えば膨れっ面をしていて、その顔もまた、木の実をほお袋に溜め込んだ雷蔵そっくりだった。
「何を笑っているんですか、もう…。
兼続さんまで水をかぶらなくても良かったのに。冷たいでしょう…?」
兼続「頭を冷やす必要があった。
俺のことは良いからお前は自分で体を洗え」
手ぬぐいを入れた木桶に水を入れて差し出すと、舞はそろそろと手を伸ばし、震える手で手ぬぐいを取った。
びちゃびちゃと水が音を立て、舞は手ぬぐいを絞らずにそのまま首筋に持っていき体を震わせている。
「うぅ…、冷たい。冬じゃなくて良かった」
水の冷たさに目を瞑り、顔、首、足と、水が触れる度に震えている。
襦袢が肌に張り付いていやらしく体の線を拾っているが、舞は気づかずに身体を清めている。
沈黙が訪れ、俺はやっと詫びる時がきたと口を開いた。
兼続「一度ああなると惨(むご)たらしい行いをしてしまう。
怖がらせて悪かった。恐ろしかっただろう」
「……?」
俺の本性を見られてしまったからにはと切り出したが怖がっている様子は見受けられなかった。
実の弟すら俺を恐怖の対象として見たのだ。
舞も当然そうだろうと顔を覗き込んだのだが、戸惑いがちに見返されただけだった。
兼続「他にもお前に詫びることがある。
俺が居るからと安心して眠ったのだろう?お前の信頼を裏切って悪かった。
謙信様には明日報告し、罰を受けるつもりだ」
「やむ負えない理由で席を外したんでしょう?
罰なんてとんでもないですっ」
(これに関しては反応したな)
俺の醜態にはポカンとしていた割に、報告して罰を受けると言った途端、必死に訴えかけてくる。
(そんなに必死な顔をしなくてもいいだろうに)
目を逸らしたが温もりは膝の上に乗ったまま…。